タイトル
04.民喜の作品紹介
 原民喜の作品をいくつかご紹介します。

1.夏の花
2.
3.ガリバー旅行記
4.心願の国
5.鎮魂歌
6.永遠のみどり
7.苦しく美しき夏
8.秋日記
9.美しき死の岸に
10.三田文学


1.夏の花

「夏の花」
「夏の花」原民喜 著 
能楽書林 1949年 刊
短編小説。昭和22.6「三田文学」に発表。24年2月能楽書林刊の短編集「夏の花」所収。第1回水上滝太郎賞受賞作。 
 原爆被災直後の20年秋から冬にかけ、避難先で死の不安におびえつつ、書きとどめたものといわれる。八月初めの一日亡妻の墓に詣でて名も知れぬ「夏の花」を手向けた作者は、その翌々朝起き脱けのままの姿で原子爆弾の一撃にあう。この作品は、それから丸二日にわたる凄惨な広島の実景と郊外の八幡村へ避難してからの事実を、ときにはカタカナで書きなぐり、時には出来事の前後のつながりも不明瞭なまま挿入されている。一見ルポルタージュ風の冷静な視覚的描写の中に犠牲者に対する作者の哀傷や祈りの念が深くこもっており、読者に清冽な印象と感動を与える。  
 『夏の花』は、「壊滅の序曲」「廃墟から」とともに単行本に収められ、三部作をなしている。「壊滅の序曲」で描かれる原爆以前の家族らの感情の行き違いは、逼迫した戦況を語る一方、感情など語る余裕もない原爆以後を不気味に照射し、「廃墟から」は終戦を迎えた広島を、おさえた筆致で綴る。
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ギラギラノ破片ヤ  
灰白色ノ燃エガラガ  
ヒロビロトシタ パノラマノヨウニ  
アカクヤケタダレタ ニンゲンノ死体ノキミョウナリズム  
スベテアッタコトカ アリエタコトナノカ  
パット剥ギトッテシシマッタ アトノセカイ  
テンプクシタ電車ノワキノ  
馬ノ胴ナンカノ フクラミカタハ  
プスプストケムル電線ノニオイ

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2.焔

「焔」
「焔」 原民喜 著 自費出版
1935年刊 
(東京印刷が印刷、白水社が販売)
短編集。昭和10.3月 白水社から自費出版。  
  原民喜最初の刊行物。わずか四百字詰め原稿用紙一枚のもの(「青空の梯子」)から、二十枚をこえる「焔」までの総数六十四編の小品(このうち「渚」は、タイトルと副題のみ)を集めたもの。
 この作品集には、詩的で繊細な表現も多くみられ、10代からの詩作・句作によって培われた民喜の文章力や鋭敏な感覚を示している。
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「童話」
 大人が私に馬の絵を見せて、頻りにその真似をしてみせる。すると私も馬になったやうな気持ちがする。非常に速く走ったり、暴れたりすることはどんなに愉快か、私も自由に動いてみたい衝動で一杯なのだ。大人の腕によって私の身体が楽々と持運ばれて行く時、障子や、天井や、畳は私のほとりを動く。
 障子や、天井や、畳が動かない時、その時は全体が何か一つの怪しい謎を秘めてゐるよやうだ。特に夕方、電燈の点かぬ前がさうだ。現在の私は腥い塊りで、それが家のなかに置かれてゐる。家の上には暮方の空が展がってゐる。そして、それはすべて確なことだが、確なことほど朧気でならない。

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3.ガリバー旅行記

「ガリバー旅行記」
「ガリバー旅行記」
原民喜 著   
主婦之友社 1951年刊
再話。昭和26.6 主婦の友社 少年少女名作家庭文庫5として刊行。  
 戦後の日本の新しいガリバー像を先がけてつくったひとつ。もともとはアイルランドの作家スウィフトが大人のために書いた物語。馬の国(フウイヌム)の章では、理性的なユートピアに住むヤーフ(人間)の醜悪さを通して、ユートピアの持つ「痛ましさ」と人類の暗愚への強い怒りとを描写している。
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ガリヴァの歌
 
必死で逃げてゆくガリヴァにとって  
巨大な雲は真紅に灼けただれ  
その雲の裂け目より  
屍体はパラパラと転がり墜つ
 
轟然と憫然と宇宙は沈黙す    
されど後より後より追まくってくる  
ヤーフどもの哄笑と脅迫の爪  
いかなればかくも生の恥辱に耐えて  
生きながらえん と叫ばんとすれど  
その声は馬のいななきとなりて悶絶す


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