畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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・・・が み ・・ ひそんでいたもう一つの姿は、ジリジリ前進した。彼女もまた自分のほうへ来るなにかを摑もうとするように両手をつき出していた。そして最も遠くはなれていた姿は、うれしげにうなづきながら、急いで近か寄って行った。 ウィルフレッドとアルジャーノンは、恐ろしい沈黙の一瞬間に、万事を了解した。そして男の姿とスタンレイの間に、はげしい掴み合いが行われているのを見た時には、もう息をつくこともできなかった。スタンレイは、唯一の武器の缶詰でなぐりつけた。それで縁の破れた黒帽が、相手のあたまからころげ落ちた。そして白い頭蓋骨―髪の束かとも思われるしみのついた白い頭蓋骨があらわれた。この時、女の姿の一人が、そばに行ったかと思うと、スタンレイが頸に捲きつけている綱をグイッと引っ張った。その一瞬勝負はついた。苦しげな叫びがバッタリやんだ。そして三人の姿は樅もの樹の茂りの輪の中に消えた。 また一瞬間は、救いの手が届きそうにも見えた。ジョーンズ氏は、急いで大股に進もうとした。が、突然立ちどまり、振り返えり、眼をこすったようだった。そして―こんどは原っぱの方・へ・走り出した。そこでウィルフレッドとアルジャーノンは、うしろへ眼をやった。するとキャンプの一隊が、隣る芝山のてっぺんへ馳せ参じたばかりか、あの牧夫の爺さんが、自分達の山へ駆け登って来るのが見えた。二人の少年は、手招きし、声をあげ、牧夫へ向けて、二三ヤードも駆け寄ろうとしては、あと戻りした。牧夫は歩調を早めた。 もう一度、二人の少年は原っぱを見やった。そこにはなにも眼に入るものがなかった―いや、樹々の間になにかあったか、それとも霧がかかっていたのかな―ジョーンズ氏は茂りを踠もくように越え、草むらを跳りぬけていた。 二人の少年のそばに、牧夫が喘ぎながら、つっ立った。二人の少年は駆け寄ってその両手にかじりついた。『あいつ等が、ジャッキンズをつかまえたんだよ!樹の間へ消えっちまったんだよ!』―これが、やっと繰りかえし口から出せた言葉だった。 『なんだって?あの子が、昨日わしの話したあすこへ、とうとう行ったって言うだかね?可哀そうに!可哀そうに!』 ― 61 ―

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