鏡で見てなさるが、あんたなら、とにかくわしのいう通りだといえる筈だ。』 『ああ、その通りだよ。』と、ウィルフレッドはうなずいた。『だが、足跡が見えるよ。誰かがいつかあすこへはいって行ったにちがいない。』 『足跡!』と、牧夫は言った。『まちげえねえ!四筋ある筈だ。三人の女と一人の男のだ。』 『そりゃあ、どういうわけだい?三人の女と一人の男って。』と、スタンレイは、はじめて振り返えって、牧夫を見ながら言った。(彼はこの時まで、背中を向けたままで話していたのだった―行儀のわるい少年だから)。 『わけ?わけって、わしの言ってるのは、女三人と男一人さ。』 『それは誰?』と、アルジャーノンが訊いた。『なぜあすこへ行ったの?』 『誰だったか、それを言える人は、今では、四五人くれえのことでしょうよ。』と、牧夫は言った。『なんしろ、その人達が身をほろぼしたってのは、わしが生れたより前のことだからね。そして、なぜあすこへ行ったかってわけは、今でもまだあの人達の子にだってわからねえんです。わしが聞いたこと以外では、あの人達ぁ、生きていた間は悪い人間だったのです。』 『ほおう!なんて変な話だろう!』と、アルジャーノンとウィルフレッドはつぶやいた。だが、スタンレイは、軽蔑しきった、にがにがしい顔をした。 『ふん。君達は、そいつ等が幽霊だったとでも言うのかい?馬鹿な!そんなことを信じるなんて、君達は大馬鹿だよ。そいつ等を見かけたとでも言う人間に、僕は会ってみたいや。』ら、証人になってくれるだよ。ちょうど今日のような日の四時頃だった。わしは見ただ。―あれ等が、一人々々あの『わしは、見ただよ。坊っちゃん。』と、牧夫は言った。『あの芝山のそばでね。わしの老ぼれ犬だって口がきけた― 54 ―
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