・・・・・わ あずまやあずまや 『子どもだった時分、わたしとフランクは、いつだってここへ、一人で来るってことはありませんでした。それを今、ある気分ってものの中で、考えようとしたって、どうにもなりません。それは―すくなくとも、わたくしにとっては―言葉ではいうことのできないようなものです。そして、言葉でいうにしても、その言葉が正当にいいあらわさなかったら、むしろばかげてひびくようなものなのです。わたくしは、それが、二人に与えたものがなんだったか、どうにかお話しできます。―そう、つまり、わたし達が一人でここにいたら、なんだかひどく怖こくってならないのでした。ある秋の、大変暑い日の夕方ぢかくのことでした。フランクが、この庭園のあたりで、まるで神隠しにでも会ったように、見えなくなりました。わたしは、彼と、お茶〔午後五時が習慣的喫茶の時間。〕に連なって帰ろうとして、さがしまわりました。そしてこの道を下りて行きますと、突然、彼を見つけました。わたしは、彼が、茂りの中にかくれたのだと思っていたのですけれど、そうではなくて、彼は、古い涼亭―ここに、木造の涼亭のあったことは、御存じですわね―の隅っこにあるベンチにもたれて、眠っていました。その顔は、いかにも恐ろしげな様子で、わたしは、てっきり、彼が病気か、いや死んだのではないかと思ったほどでした。わたしは、飛んで行って、ゆすぶって、お起きなさいよと言いました。ところが、彼はワッと叫んで眼をさましました。彼は、たしかに、恐怖で気が狂っているようでした。彼は、わたしの手をとって、家のほうへ駈け出しました。その晩中、おどおどしていて、まるで眠りませんでした。わたしのおぼえているかぎりでは、彼のそばに誰か寝ず番をしなければならなかったのでした。間もなく、彼はよくなりましたけれど、二三日の間、わたしは、どうしてそんな状態になったのか、彼から聞き出すことはできませんでした。とうとうわかったことは、彼がほんとうにベンチで眠って、実にふしぎな、とりとめもない夢を見たということでした。その話によりますと、彼は、決して自分のぐるりにあったものを、見たのでなく、その光景を、ほんとうに生き生きと感じたのでした。はじめ、彼は、多勢の人のいる大きな部屋に立っていたと知ったのでした。そして彼に向き合っている人は“いかにも強そうな”人で、彼は、その人から、いかにも重大だと感じられ― 35 ―
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