ウィルキンス嬢は、二三年前、アンストルーザー夫妻が、このウェストフィールドの地所を買ったが、そこの家族の残る一人だった。彼女は、今まで地所の近くにとどまっていたのであるが、これは最後の別れの訪問らしかった。 『ウィルキンスさんに、ここでお目にかかりたいって、おねがいなさい。』 と、アンストルーザー夫人は言った。そしてすぐ、ウィルキンス嬢は、やって来た。もういっぱしな年齢の女性だった。 『ええ、明日ここを出発しようと思いますの。わたくし、兄に、あなたがこの土地を、どんなにがらりとお変えなすったか、話してやりましょう。無論兄は、以前ここに建っていた、あのちいさな家を、惜しいことだと悲しむでしょう―わたしだって、そうですけれど。でも、花園のできるのは、ほんとに嬉しうございますわ。』 『そう言って頂けば、あり難いですわ。でも、まだまだ、改良が終ったとお考えなすってはいけません。どこへ薔薇の園をつくるか、ごらんに入れましょう。ついこの近くですの。』 設計案の細目が、ウィルキンス嬢の前に、長くひろげられた。だが、嬢は、あきらかに、ほかの場所を考えていたようだった。 『ええ、結構ですわ。』と、彼女はむしろうっかりしたように言ったが、『でも、おわかりでしょう。わたしなんだか、むかしの事を考えていましたわ。わたし、あなたが手をお入れになった前の、ここの姿を、もう一度見とうございますわ。弟のフランクとわたしは、この場所に、なによりの思い出があったのですわ。』 『ほう?』と、アンストルーザー夫人は、ほほえみながら、『それはどんなことだか、聞かして頂きたいわ。なにかきっと珍らしい、チャーミングなことでしょう。』 『べつにチャーミングではありませんわ。でも、いつもわたくしには、奇妙に思われるのですわ。』 そして、ウィルキンス嬢は語りだした。―― 34 ―
元のページ ../index.html#34