ば か たのですよ。無論それは、ロンドン塔の宝物館へ持参すべきですね。なにが君の困っていることです?もし君が、塚のある土地の所有主とか、発掘物とか、そうしたいろんなことを考慮しているのなら、僕たちは断乎として君を助けぬきましょう。誰だって、こうした場合に、裁判沙汰のなんのと、馬鹿騒ぎしようとする者はありませんよ。』 たぶん私たちは、これ以上に言いました。が、若者がしたことは、両手で顔を蔽い、こうつぶやいただけでした。―『どうしたら王冠を返えせるか、見当がつかない。』 とうとう、ロングが言いました。『失敬な奴だと思はれましょうが、許して頂いて、あなたが王冠を手に入れたのは、まったくほんとうのことですか?』 私も自分で、これと同じことを問いたかったのでした。どうにもこの話は、よくよく考えてみても、狂人の夢としか思えないのでした。だが、私は、この哀れな若者の感情を傷けそうなことは、敢えて口にしませんでした。 しかし彼は、ロングの言葉を、十分おだやかに受けました。―実は、絶望のための沈静とも言われましょう。彼は立ちあがって言いました。『ええ、そうです。嘘ではありません。私はあれをここに、私の部屋に、鞄にしめこんで、持っているのです。なんなら、部屋へおいでて、ごらんください。この部屋へ持って来る気にはなりません。』 私たちは機会を逸しようとはしませんでした。彼について行きました。彼の部屋は、つい二三番目の先でした。旅館の靴磨きが、廊下に出してある靴を集めていました―いや、そうだと私たちは思ったのですが、これは後で考えると、たしかではなかったのでした。 若者―その名はパクストンというのでした―は、前よりも嫌に震える様子で、急いで部屋にはいり、私たちを手招きし、明あり窓に向き、ドアを入念にしめました。それから彼は旅行鞄の錠をあけ、なにかくるんであるような、きれいなハンカチの束たを出し、ベッドの上にのせて、それを解きほぐしました。 私は今、実際のアングロ・サキソンの王冠を、この目で見たと、言うことができます。― 156 ―
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